大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(ワ)564号 判決 1969年10月31日

原告 中田秋子

右訴訟代理人弁護士 佐藤成雄

同 鶴田晃三

被告 坂田良雄

右訴訟代理人弁護士 朝山豊三

主文

被告は原告に対し金六万円およびこれに対する昭和四三年一二月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金二〇万円およびこれに対する昭和四三年一二月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

原告は日本料理店(○○○)を営み、被告は寿司店を営む者であるが、原、被告の店舗は都電牛込北町停留場附近の都電通りの北側に東西に隣接して存在し、両店舗の前面には二メートルの歩道があり、歩道と車道との境にはガードレールが設置してある(別紙図面参照)。したがって自動車を使用して原告方店舗に出入する客は殆んど原告方店舗前ガードレールの西側の切れ目に自動車を停めるところ、被告方では屡々出前用自転車二、三台を原告方店舗前ガードレールの西側の切れ目附近に放置するため、右自転車が原告方への客の通行の妨げとなる状態であった。昭和四三年一二月一七日午后九時二〇分頃又被告方の自転車が右場所附近に放置され、原告は客から苦情を受けたので、被告に対し自転車を移動して頂きたい旨を申し入れたところ、被告は陳謝すべきにかかわらず感情的となり原告方店舗に押しかけ、数名の客の面前において原告に対し「この馬鹿野郎、淫売婦」と大声で怒鳴りつけ、もって原告の名誉を著しく毀損した。

よって、被告に対し右不法行為によって蒙った精神上の打撃に対する慰謝料として金二〇万円およびこれに対する昭和四三年一二月一七日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告が日本料理店(○○○)を営み、被告が寿司店を営む者であること、原、被告の店舗の位置、前面の歩道、車道の状況が原告主張の如くであること、自動車を使用して原告方店舗に出入する客がガードレールの切れ目に自動車を停めることは認めるが、その余の請求原因事実はすべて否認する。

証拠≪省略≫

理由

原告が日本料理店(○○○)を営み、被告が寿司店を営む者であること、原、被告の店舗の位置、前面の歩道、車道の状況が原告主張の如くであることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被告方では出前用に自転車、自動二輪車等五台位を使用し、これらの自転車等は夜間は原告方店舗の西側にある私道(被告方の所有地)にいれるが、営業中は営業の性質上出前が多く、そのためすぐ使用できるように店舗前面の道路におくのを常とししかも被告方店舗前が狭いため、屡々内数台は原告方店舗前ガードレールの西側の切れ目附近におかれ、自動車を使用して原告方店舗に出入する客の通行の邪魔となることがあり、原告はこれについて被告に苦情をいっていたことが認められ、以上の事実と≪証拠省略≫を総合すれば、昭和四三年一二月一七日午后九時過頃原告方の客数名が帰るため原告方で呼びよせたタクシーがたまたま原告方前ガードレールの西端附近に停車したところ、その附近に又被告方の出前用の自転車等三台がおいており、客からも苦情をいわれたので、原告は女中の伏木和子を被告方店舗に行かせ、自転車をどかしてくれるよういわせたところ、被告は直ちに原告方店舗前におもむき、同店舗出入口にいた原告に対し客のいる前で腹立ちまぎれに「この馬鹿野郎、淫売婦」と怒鳴り、もって原告の名誉を毀損し、原告に精神的苦痛を与えたことが認められる。≪証拠判断省略≫そして上記認定の事実からすれば、原告の右精神的苦痛に対する慰謝料は金六万円をもって相当とすると思料される。

したがって、被告は原告に対し金六万円およびこれに対する昭和四三年一二月一七日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よって、原告の本訴請求は右の限度において正当と認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 園田治)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例